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東京高等裁判所 昭和56年(ネ)40号 判決 1983年9月28日

控訴人

古室武男

控訴人

古室憲子

右法定代理人親権者父

古室武男

右両名訴訟代理人

水上学

被控訴人

財団法人癌研究会

右代表者理事

安西浩

右訴訟代理人

渡辺修

竹内桃太郎

吉沢貞雄

山西克彦

冨田武夫

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

〔申立〕

(一)  控訴人ら

「(1) 原判決を取り消す。(2) 被控訴人は、控訴人古室武男に対し金一〇〇万円、同古室憲子に対し金五〇〇万円及びこれらに対する昭和四三年四月二〇日以降支払済みまで各年五分の割合による金員の支払をせよ、(3) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び右(2)の項についての仮執行の宣言を求める。

(二)  被控訴人

主文第一項同旨の判決を求める。<以下、省略>

理由

一当裁判所も、控訴人らの本訴請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり付加又は訂正するほか、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

(一)  <省略>

(二)  同一五枚目表二行目<編注、本誌四三七号登載原判決の一四五頁上段1の二行目、以下同様>の「異常下り物」を「下り物の異常」と改める。

(三)  同一七枚目裏一〇、一一行目<編注、一四五頁下段5の二行目>の「産婦人科部長」を「婦人科部長」と改める。

(四)  同一八枚目裏五、六行目<編注、一四五頁下段6の八、九行目>の「増渕医師の触診の結果子宮頸部がまだ硬かつたこともあつて」を「外子宮口の後唇及び子宮膣部前唇の部分に癌の残存を疑わせるような所見があつたので」と、末行の<編注、一四五頁下後7の二行目>の「発熱に」を「呼吸困難と」とそれぞれ改める。

(五)  同一九枚目表六行目<編注、一四六頁上段八、九行目>の「転科されて」を「転科して」と改め、同じ行<編注、同九行目>の「既に」の次に「肺のほか」を加え、同裏五行目<編注、一四六頁上段二一行目>の「栓索」を「検索」とそれぞれ改める。

(六)  同二〇枚目表九行目<編注、一四六頁二段一〇行目>の「調べるべき義務がある」を「調べるべき義務があり、また、被控訴人としては右検診にあたつて十分経験ある医師にこれをさせるべき義務がある」と改め、同裏一〇行目<編注、一四六頁二段1の一六行目>の「認められるところ、」を「認められる。<証拠>によれば、文献の中には正面及び側方からのレントゲン写真撮影を行うべきである旨述べているものもあることが認められるが、これを前掲証拠と対比すると、未だ前記認定を動かすに足りない。そして、」と改める。

(七)  同二一枚目一〇行目<編注、一四六頁一〇行目>の「子宮癌の転移は」の次に「、初めのうちは」を加える。

(八)  同二二枚目表四、五行目<編注、一四六頁下段二行目>の「大きいことから」の次に「不可能であり、結局」を加え、五行目<編注、同三行目>の「放射線治療を除いて」を「放射線治療以外には右転移癌に対する治療は」と、同裏八行目<編注、一四六頁下段二三行目>の「レントゲン写真撮影は」から末行<編注、同二七行目>の「大きいこと」までを「レントゲン撮影には、癌の再発・転移に対する患者の不安感を増強させるなどのマイナス面もあること」とそれぞれ改める。

(九)  同二三枚目表六行目<編注、一四七頁上段三行目>の「疑せる」を「疑わせる」と、同じ行<編注、同四行目>の「限つて」を「限つてか、あるいは六か月ないし一年に一回位の割合で定期的に、」とそれぞれ改める。

(一〇)  <省略>

(一一)  同二五枚目表三行目の次に<編注、一四七頁二段四結語の前に>、行を改めて、次のとおり付加する。

「3 次に、控訴人らは、昭和四二年九月一九日に撮影された訴外ミンの胸部レントゲン写真の読影を被控訴人が経験不十分な医師にさせたために転移が発見されなかつた旨主張するが、右写真に控訴人ら主張のような転移を示す陰影が見られることについてこれを認めるに足りる証拠はない(右写真である甲第一一号証の三に関して「何かあるようですけれども詳しくは分かりません」との当審証人増渕一正の供述があるが、その後の被控訴人側立証を含む弁論の全趣旨に鑑みると、心証を惹くに十分とはいえない。)から、右主張はその前提を欠き、失当である。

訴外ミンの死亡は、遺族である控訴人らにとつてはまことにいたましい事実である。「肺転移が早く発見されていたら……」と悔む控訴人らの心情は、当裁判所も十分理解するところであるが、それが適時に発見されなかつたことにつき被控訴人側の医師に責任があるとする控訴人らの主張が証拠上必ずしも維持できないことは、以上つぶさに判示したとおりである。それを越えて訴外ミンの死亡を避止しえたものと主張することは、本件の事実関係においては、現実の医学そのものの不完全さから生じた結果を被控訴人側の医師の能力不足に帰することとなろう。医学は決して万能ではなく、現行民事責任法制の下では医師の治療に由来する賠償責任の追及にはおのずから限界がある。控訴人らがこれを理解し、被控訴人側を責めることをあきらめて、故人の冥福を祈る気持になることを、当裁判所としては期待するものである。」

二よつて、控訴人らの本訴請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条一項本文に従い、主文のとおり判決する。

(倉田卓次 下郡山信夫 加茂紀久男)

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